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若山忠毅は、特定の立場や物語に回収されない風景に、長い時間をかけて向き合ってきました。歴史や制度、個人の記憶が複雑に重なり合う場所において、意味が定まらないまま残されているものに視線を向けています。
そこに写る風景は、過去の出来事や現在の状況を説明するものではなく、むしろ、どの文脈にも完全には属しきらない佇まいを保っています。確定した解釈や結論を示すことなく、風景が孕む不確かさをそのまま差し出すこと。
本写真集では、成田空港周辺で継続的に撮影されてきた写真作品がまとめられています。
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2013年に偶然空港の近くに立ち寄った際、私は現状に対する純粋な好奇心から成田市東峰、天神峰地区を訪れた。空港建設の詳しい経緯もわからぬまま、当時の私が目にしたのは、かつてそこに存在したであろう牧歌的な風景から、畑と宅地などが混在し郊外的な性格を帯びた空間への変容であった。もちろん、空港建設以前から当地に暮らし、建設に反対している住民の土地も、点々とその存在を探し当てることができる。だが、空港建設以前や空港問題と異なる文脈で生じたのは、日本のあらゆる地域に偏在する均質化された空間の出現であった。
ノスタルジックな田園風景や反対運動の荒々しいイメージとは異なる成田空港周辺の現実、それらを表象するものとは何か。まずはその場で感じた印象を頼りにして、空港周辺を巡ることにした。移動中の撮影では、自分の撮影趣向を抑えるため、可能な限り飛行機の離着陸方向にカメラを向けるという制約を設けた。こうしたルールのもと、成田空港周辺における過去と現在のイメージを断片的に再構成する行為を繰り返していった。具体的には、今もなお闘争を想起させる場所を政治的・思想的な文脈から切り離し、記憶の中でイメージを分節化し再配置することで、別の空間性へと転化する試みである。
空港周辺を廻りながらこのような撮影を繰り返しているうちに気づいたことがある。それはもはや当地の主体が、単に空港(国家)と農村(コミュニティ)という構図ではないということである。ここでは、二つの主体以外にも空港関係企業・この地に関わる個々人などが複雑に介入した空間が形成されている。言い換えれば、それは従来の空港と農村との軋轢の傍らで、主体の多様化から派生した郊外空間、エドワード・レルフの言うところの「没場所性」※的空間に還元できない余白のようでもある。
こうして空港周辺で撮影してきた膨大な写真を見るうちに、かつて目にした既存の写真や映像のイメージが少しずつ後退して、従来とは異なる空間のあり様が浮かび上がってきた。
※エドワード・レルフ『場所の現象学─没場所性を越えて(Place and Placelessness)』(ちくま学芸文庫、1999年)
若山忠毅
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