山の標本
彫刻家・小林且典による「山」をテーマにしたブロンズ作品の作品集。鈍く光る山の姿、その静謐な美しさ。それらが黒とシルバーのインクで印刷され、洗練と重厚とを共に備えた独特の空気に満たされています。そして裏面には「ひとりでブロンズを鋳造する話」と題して、ミラノでの留学時代から帰国後に自身で鋳造をはじめることになったきっかけを綴ったエッセイを掲載。1人の若き彫刻家が誕生する経緯とブロンズへの情熱が記された内容も興味深く、作品と表裏となった蛇腹式の製本に不思議な説得力を感じます。「あるとき、固まった身体を解すため立ち上がってみると、ふと窓外へと視線が向かった。」と語る作家、そこから生まれた山々のブロンズ。作品と文章をともにお楽しみください。
ブロンズのテーマは小さな植物から静物へわずかずつ画角は広がっていったが、相も変わらず部屋に閉じこもって卓上の対象と会話する日々が二十年以上続いている。 あるとき、固まった身体を解すため立ち上がってみると、ふと窓外へと視線が向かった。ヘリコイドを回転させて眼球のレンズをと遠景に合わせてみると、そこには地上と空の境に切り込む稜線が心地よいリズムを奏でていた。それらを網膜に映し取って”山の標本”を作ってみた。 (小林且典)
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