Vortex
『Vortex』は近年、写真家・川田喜久治がInstagramのアカウントにアップロードし続けている膨大なデジタル作品群から選ばれた252点を中心に構成されています。2021年に発表した『20』(bookshop M)を経て、本書は川田のウェブプラットフォーム上における営為の集成であると同時に、1933年生まれの作家の、現代都市の混沌に向けられた比類なき視線と精神性が凝集した一冊となっています。
川田は写真家集団〈VIVO〉の結成と解散を経て、第一作目となる写真集『地図』(美術出版社、1965)を発表。以降、『ラスト・コスモロジー The Last Cosmology』(491 + 三菱地所、1995)、『遠い場所の記憶 1951-1966』(Case Publishing、2016)等の写真集、「ロス・カプリチョス」「カー・マニアック」「ユリイカ 全都市」等のシリーズ群への取り組みと、それらから派生する国内外での数多くの展示によって、戦後日本を代表する写真家の一人として、60年を超えるキャリアを連綿と紡ぎ続けてきました。
『Vortex』に収録されたイメージの多くは川田が生活する現代の東京で撮影されたものですが、数十年前に撮影・発表さ れた作品もまた時空を超えて擬態するように紛れ込み、本書の一部を成しています。時に過剰なほどの操作によって色彩と触感を歪ませ、繰り返されるモチーフによって鑑賞者の心象に絶え間ない圧迫と一分の隙間を与える――パンデミックのただなかへと迷い込んでいく都市の様相は、それらが肌理の粗い嵩高紙の束に重なることでやがて秩序と境界を喪失し、私たちもまた、 いつしかその渦中へと引きずり込まれていくようです。碑を思わせるハードカバーの表・背・裏に三度刻まれた同心円は、それ自体が何かの啓示であるかのように振る舞い、不敵にそこに鎮座するのです。
本書巻末には、写真史家の甲斐義明、同じく写真史家/インディ ペンデントキュレーターのポリーヌ・ベルマール、「空蓮房」房主/写真家の谷口昌良による寄稿に加え、川田本人とノンフィクション作家の藤野真功共同署名による略年譜を収録。全544ページのボリュームで編纂されました。
若さと老齢のさまざまな段階で失った面影を。
やがて深海の渦へと巻き込まれていった。"
View of the book ©︎Daido Bro
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